➁中間層への支援
a)中間層とは
精神疾患の患者のなかには、健康な人と病気の人の間くらいの症状の人が、かなりいるのではないかと思う。
このような患者を、わたしは中間層ということにしたい。この中間層の大半は、かなり早く治るのだろうと思うが、なかに、診断が難しく、いつまでたっても良くならない患者がいる。
わたしの記憶障害も、医師によれば、それほど深刻なものではなく、正常と病気の中間層ということになろうが、診断ができず、治療できないという、厄介なものであった。
b)診断できない、病名がないことの苦しみ
わたしの病気は、当初、心気症というノイローゼではないかということであったが、その後、慶応大学での1か月余りの入院と検査によってまとめられたサマリでは、統合失調症の可能性があり、また、心気症やうつ病の可能性もあるということで、容易に診断できるものではなかった。
病気が診断ができないというのは、患者を苦しめる。
職場で、わたしは自分の病気を明快に説明できなかった。そして、何らかの配慮を求めるということも、できないことになった。
(慶応では、うつ病患者だと職場の人事担当者が病院によばれ、医師が配慮すべきことを説明していたが、わたしが復職するとき、病名がなく何もできなかった)
仕事を続けられるか、辞めるべきかと、悩んでも、病気がどうなるか予測できないから、どう考えていいのか、わからない。
家族もわかってくれない。
わたしが、脳が壊れたといったのは正しくなくオーバーなものと受け取られたが、記憶力低下の深刻さを訴えても、オーバーなことを言うと とられてしまった。
c)誤診と退職
そういう状態で、7年がたった時(2005年)、わたしは脳のMRI、SPECTやウェクスラー知能検査を受けた。検査のあと、わたしは、医師に退職を考えていることを言ったところ、医師は反対しなかった。それで、脳に深刻な障害があると医師も考えていると考え、退職を決意した。
しかし、当時、わたしは医師が統合失調症と考えていて、それで、退職を止めなかったのだということは知らなかった。
当時の医師の考えは、退職を相談した日のカルテに、つぎのように書かれている。
「本人なりに現状が理解でき納得された様子。
来年度仕事継続するかもうしばらく考えてみると話すが、続けることが困難であることは理解できた様子」
ここから、医師は、わたしを、自覚のない統合失調症の患者で、仕事はやめさせるべきだと、考えていたとみられる。
こうして、わたしは、退職したが、医師が退職を止めなかったのだから、障害年金のような支援を受けられると、考えていた。しかし、退職すると、医師は、なぜか、ハローワークに行くことを勧めた。医師が、病気を、かなり軽く見ていたということに気づいて、わたしは退職したことを後悔した。
しかし、医師のこのような対応の変化は、奇妙である。医師が考えるように、統合失調症であれば、障害年金とか、障碍者枠での仕事とか、いろいろ支援策を受けられるはずなのに、医師はハローワークに行くことを、いつも言っていたのである。
なぜ、医師に、こんな変化が起きたのかということだが、この変化は、このころ、わたしの病気は心気症だという学会発表が大学病院内で準備され、それを医師も知ることになったからではないかと考えられる。
医師は、わたしの病気は統合失調症ではない可能性が高く、障害年金を受けることが難しいと考え、ハローワークに行くことを言いだしたと考えられる。さらに、医師は、統合失調症という診断を、わたしにも家族にも伝えなかったが、これは告知すれば、誤診だと指摘され、自分のミスが明白になると考えたからではないか。
このように、統合失調症が誤診であることは明白ではないかと思うが、裁判官は統合失調症が正しく、心気症は間違いだとしている。
d)中間層への支援の必要性
中間層の患者は、誤診されたり、誤った処方や対応を受けると失うものが多い。そして、障害年金などを給付されることはない。
また、現実には、裁判官は精神科医の権威を守ることしか考えていないので、患者が裁判で、誤診の損害を補償してもらうこともできない。
中間層は、こういう、きわめて不利な立場におかれているのが、現状である。
よって、現実的な解決策は、広範な中間層の患者への支援を整備することである。
つまり、長期にわたって治療していても良くならず、ついに、仕事を失い、再就職も難しいというような状況の患者については、重病であるという診断ができなくとも、障碍者に対する支援に準じた、経済的支援、就労支援を行うべきではないか。
退職した後、わたしは、何の経済的な給付もなく、死んでしまうことを、いつも考えていた。
中間層の患者は、病気自体の苦しみは大したことがないと考えられている。
しかし、中間層が、生活の保障がなく、病気についての周囲の理解もなく、ときには、怠け者のように扱われることすらあるなかで、さらに病気を悪化させ、生きる意欲を失ってしまうことは往々にして、起こりうると考えられる。
そういう状況に陥ったものを、助けるのは、労力を要し、困難でもある。
とすれば、早い段階での支援で、悪化を防ぎ、社会復帰を助けた方が、効率的であるといえるのではないか。